東京オリンピック、パラリンピックが閉幕
9月になり東京オリンピック、パラリンピックがとうとう全ての日程を終了しました。
各国のアスリートがメダルを獲って感極まったり負けて悔し涙を流したりする姿を見て心が震えました。
練習環境にさまざまな制約があり、またCOVID-19で家族や友人を亡くした選手もいる中で開催された特別なオリンピックだったと思います。まずは、日本に来てくださった選手のみなさんに心から感謝したいと思います。
また、オリンピックの開会式では、会場に手話通訳がついていたのになぜ放送では映されなかったのか?という疑問の声が「開閉会式に手話通訳を」という大きなムーブメントになりました。
オリンピックの閉会式とパラリンピックの開閉会式には手話通訳、それもろう者による手話通訳でした。聴こえる手話通訳者(フィーダーといいます)が音声を手話通訳して、さらに、ろう者が手話を手話に通訳するというスタイルでした。
臨場感のある活き活きとした手話表現のおかげで聴こえる人と同じようにイベントを楽しむことができましたし、Twitterでは「#手話の人」というハッシュタグができて、手話に興味を持った人もいたようです。
手話でオリンピックを楽しめたことも良い思い出になりました。
国内はデルタ株で医療体制が逼迫
一方国内はというと、デルタ株の凄まじい勢いにおされて各地の医療体制が逼迫しています。最前線で働いているドクターやナースのみなさん、そして患者さんからも伝えられています。
救急車には乗れたけれども200件の医療機関に断られて仕方なく自宅に戻ったというようなケースも生じていて、入院待機ステーションを設置している自治体もあります。
医療の逼迫は通常の医療にまで影響を及ぼしており、いま、交通事故や大きな病気にかかっても受け入れてくれる病院が見つからず、手術や入院もできないかもしれないという危機的な状況です。
ワクチンに対する期待や不安もよりいっそう大きくなっています。当初は、副反応のことを心配していた人たちも「もはやワクチンを打つ以外の選択肢がない。」という考えにシフトしてきているように感じます。
私の家族や友人たちも「肩が上がらなくなったり熱が出たりなどの副反応への不安はあるけれども、COVID-19にかかって自宅でのたうち回るよりマシだ」という考えにいたりワクチンを接種しました。
ワクチンを無料で打つことができるのは私たちが日本にいるから
私たちがmRNAワクチンを無料で打てるのはここが日本だからです。COVID-19ワクチンはまだ全世界に行き渡っておらず、貧しい国の人たちはワクチンを待っているのが世界の現実です。
我が国は世界全体から見ればお金持ちの国に属します。全国民に行き渡る数量のmRNAワクチンが入手でき、COVID-19に罹患した場合には公費で治療を受けることができます。
他国であればmRNAワクチンは有料であるとか、あるいはアメリカが今そうなっているようですが、多額の治療費を捻出できずに自己破産してしまう人もいます。
ですので個々の政策がパーフェクトではないにしても、全体としてはCOVID-19の予防や治療に多大なリソースを用いている点については評価するべきだと思います。
ワクチン接種がさらに進むことで、通常医療への影響を減らし、COVID-19以外の病気で入院や手術ができるようになればもっと多くの人の命を救うことができるようになリります。
防げる病気が防げないのも、ここが日本だから
一方で、風疹とかムンプスとかHPVとか、すでに世界中でワクチンが使われてて予防できるはずの病気が予防できてないのも、ここが日本だからだということを今日はお伝えしたいのです。
風疹ワクチンでは、2013年の流行を踏まえての対策では、予算不足などを理由に患者数が多い40代、40代の男性に向けての対策は後送りされました。2018年の再流行を受けてやっと国が対策に乗り出したのです。
ムンプスワクチンは、後遺症として難聴があるために耳鼻咽喉科学会が定期接種化を求めていますが、1993年にMMRワクチンが中止されて以来、定期接種化を積極的に推し進めようという動きは見られていないように思います。
HPVワクチンにいたっては、その安全性や効果のデータが揃いワクチンを接種するメリットが上回ることが明らかになっていますが、田村厚労相のHPVワクチン積極的勧奨再開「先送り」発言に 製薬会社MSDが遺憾の意を表明する異例の事態となっています。
衛生状態がよく医療アクセスが良い日本において、ワクチンで予防できる可能性の高い病気が予防できないのはとても悔しいことです。
命の危険にさらされ「ワクチンを打っておけばよかった」と後悔しても”too late”
COVID-19に関連してアメリカで起きた事例では「ワクチンを打ってほしい」と懇願する患者に「ごめんね、今からでは遅いの」という悲しいやりとりが医師と患者とのあいだでかわされました。その人は人工呼吸器をつける直前になってようやくワクチンの必要性を身をもって知ったのです。(‘I’m sorry, but it’s too late’: Alabama doctor on treating unvaccinated, dying COVID patients)
「あのときワクチンがあることを知っていれば…」「ワクチンを打っておけばよかった…」と取り返しのつかない事態になってから後悔するのでは遅いのです。
取り返しのつかない事態だと悟るのが、これから死ぬのだとわかったときだったら。妊娠中に風疹にかかってしまい子に病気や障害があるとわかったときだったら。目の前にいる元気な子がSSPEと診断され転げ落ちるるように病状が悪化していくことを知ったときだったら。
万に一の奇跡が起きて治せるかもしれないという希望を求めてあちこちの病院にかかった先にある絶望をあなたは想像できますか。
もしもCOVID-19なみに流行したら新生児医療が限界を超えて限界に
理論疫学者の西浦博先生によれば、COVID-19の基本再生算数は風疹相当だそうです。
基本再生算数は、免疫のない集団で一人の感染者が何人に感染させるかを表す数字です。(これには「どのくらいの時間をかけて」というようなパラメータが含まれませんので「感染力」とは異なります。)
ウイルスの感染性を表す指標の「基本再生産数」は、デルタ株では5以上の可能性が高く、それは他の感染症で言えば風疹相当くらい高い
既に雑誌『数学セミナー』9月号で簡単な数式いくつかを使って解説したが、2021年8月現在に日本で流行を起こしているデルタ株は以下の2つの特徴を有する。
———-
(1)感染性が高い(再生産数が高い)
(2)予防接種の効果が従来株より低い
———-いずれの要素も集団免疫閾値に直接的に影響を与える。特に、前回の記事でお伝えした通り、(1)に関して言えば、ウイルスの感染性を表す指標の「基本再生産数」は、デルタ株では5以上の可能性が高く、それは他の感染症で言えば風疹相当くらい高いものである。
風疹相当という観点で考えれば、同室で向かい合って近距離で食事すると危ない、というどころか、同室を一定時間以上共有することで伝播が成立する可能性が十分ある。
西浦博教授が考える「ワクチン接種が進む日本」でこれから先に見込まれる“展開”(現代ビジネス) – Yahoo!ニュースより
もし風疹が今のデルタ株なみに流行していたらどうなっていたでしょうか。
1987年の大流行においては、全国で40万件以上の感染者が報告されています。全数報告ではなく小児科・内科の定点医療機関からの報告数なので実際にはもっと多くの患者さんがいたと考えられます。
また、2012年〜14年に確認されたCRSの症例は45例で、うち11人が亡くなっています。流行期には風疹感染をおそれての人工妊娠中絶も増えることも過去の統計により明らかになっています。
麻疹よりは重症化リスクが低いため大人の医療に対するインパクトはそこまで出ないかもしれませんが、赤ちゃんが感染すると、心臓病になったり早く生まれてきたりして命にかかわる状態に陥ってしまうことがあります。
日本の新生児医療は世界の中でもトップクラスの実力を誇ります。今は救命率の上昇により400g台で生まれる子が増えて、重い心臓病の治療成績も良くなっています。
その一方で、週数が少なければ少ないほど、そして合併症があればあるほどNICU(新生児集中治療室)の在室期間は長くなっていきます。命を救えるようになったのは素晴らしいことではありますが、そのおかげでベッド不足が慢性的に続いています。
もしもいま風疹ワクチンがまだなかったとしたら、集中治療が必要な赤ちゃんの母数が増えてしまい、平時なら守れていた命も守れなくなる可能性が高いです。
お腹の中で風疹ウイルスと戦って、なんとか生きて生まれてくることができたとしてもシビアな決断を迫られることになるかもしれません。
そう考えると、やはり風疹の流行はなくすべきだと私は考えます。大規模な流行が起きていた時代に時計の針を戻してはならないのです。COVID-19だけでなく、すでにあるワクチンで防げる病気の予防もぜひお願いします。