風疹ゼロアクション – 風疹の流行を繰り返さないために。

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このページでみなさんに伝えたいこと

  • 風疹、先天性風疹症候群はワクチンで予防できる病気です。
  • 30~50代男性は風疹の免疫保有率が低いため、特に要注意。
  • 風疹の予防接種(MRワクチン)、抗体検査を受けましょう。

2018年~2019年、風疹が再び流行。

感染症発生動向調査 2019年第51週」によると、2018年に2,946件、2019年に2,294件の報告がありました。

2019年は前半で患者数が2,000人を突破し、後半からはゆるやかに推移している状況です。年末に入ってからは、週あたり10人以下で局地的な流行にとどまっているといえます。

男女別に見ると、男性が約1,800人、そのうちの半数が40代と50代。2013年流行のときに流行の中心となった集団で、2019年度から始まった第5期定期接種の対象世代にあたります。

女性は約500人で、6割以上を占めるのが20代から30代の女性です。妊娠適齢期にあたる世代なので、この中には妊婦さんも含まれます。

この流行により先天性風疹症候群の赤ちゃんが4人生まれました。

風疹の流行は約5年おきに繰り返されています。前回の流行は2012年から2013年に発生し、1万4千件の報告がありました。この流行により生まれた先天性風疹症候群の赤ちゃんは45人にのぼり、11人が亡くなりました。

厚生労働省は、2014年3月に「風疹に関する特定感染症予防指針」をたてて「早期に先天性風疹症候群の発生をなくすとともに、平成32年度までに、風疹の排除を達成する」という目標をたてました。

2013年風疹大流行を踏まえ、5年あれば対策できるだろうと考えて立てられた目標でした。しかし、私たちは防げる流行を防ぐことができなかったのです。

風疹、先天性風疹症候群はワクチンで予防できる病気です。

風疹は、妊婦さんと赤ちゃんにとって、とても危険な病気です。健康な大人であれば数日で治ることの多い病気ですが、お母さんのお腹の中で風疹に感染すると、赤ちゃんが目や耳、心臓などに病気や障害を持って生まれることがあります。

お腹の中で風疹に感染してしまった赤ちゃんは一生病気と闘わなければなりません。生まれてくることができずにお腹の中で死んでしまう赤ちゃんもいます。

2013年の風疹大流行では、14,344人の報告があり、45名の先天性風疹症候群の赤ちゃんが生まれました。2012年から2014年にかけて生まれた45名のうち11名が死亡しており(10名が生後半年以内に死亡)、11人のうち10人は生まれつきの心臓病を持っています。風疹が流行していなければ、失われることのなかった命です。

34名のサバイバー(生存者)となった子どもたちも、心臓病や難聴、白内障などの病気や障害をかかえており、彼らの人生に大きな影響をおよぼしています。病気のために手術を受けなければいけなくなったり、つらいリハビリを受けたりしなければなりません。

目や耳に障害を持つこどもは、外からの情報が入りにくく、生活の場面で不便なことがあったり、周りの人とのコミュニケーションを取ることが難しかったり、障害のためにできないことや苦手なことで苦労することもあります。

彼らは、風疹が流行していなければ、病気や障害をもって生まれてくることはなかったのです

風疹の流行は、あと一歩でなくせます。

長期的に見ると、風疹の流行は過去にくらべて激減しており、風疹の流行をなくすことができる一歩手前のところまできています。1987年には、全国で40万件以上の報告があったのが、2004年には4千件と、100分の1になりました。CRS児も、1987年には年間で少なくとも100人(聾学校のみの調査のため実際はもっと多いと考えられます)いたのが現在は減少しています。

妊婦さんが風疹にかかったことで周囲からのプレッシャーを受けて、中絶を選択したケースもあります。1975年、1982年の風疹大流行では、風疹で赤ちゃんに障害が出ることをおそれての中絶が約10,000例ありました。

風疹ワクチンの定期接種は、1977年6月から女子中学生を対象に開始されました。1987年の大流行のころまでは、妊娠適齢期の女性もワクチンを打っていなかった人が多く、自然感染が中心の時代です。かつては風疹のせいで多くの命が奪われていましたが、ワクチンによる予防が始まったことにより、流行をなくすことが可能になりました

30代~50代の男性は特に要注意。

2018年の夏ごろから続く風疹流行では、30代から50代の男性の感染が目立っています。2013年の大流行でもこの世代の方を中心に流行が拡がりました。

2017年の抗体保有状況を見ると、30代から50代の男性は、他の世代と比べて風疹への免疫を持たない人が多いのです。

この世代の方は、予防接種を受ける機会がなかったか、中学生のときに1回だけしか接種しておらず、現在標準となっているMRワクチンの2回接種を受ける機会がありませんでした。

男女差が生じている理由は、風疹ワクチンを導入する際に、女子にだけワクチンを接種するイギリス方式を採用したためです。アメリカでは男女に風疹ワクチンを接種し、風疹の流行を減らすことができたため、後になってアメリカ方式に転換したのです。

今日では子どもへの予防接種が進んでいるため、風疹に対する抵抗力を持っていない大人への予防接種を進めれば、今後の流行を食い止めることができる可能性が高いです。

職場で拡がる風疹、知らないうちに移してしまうこともある。

風疹に感染していても、「不顕性感染」により発熱や発疹などの症状が出なかったり、あるいは、症状が軽くて風疹に感染していることに気づかないことがあります。

不顕性感染は約15%の割合で生じます。症状が出ていない場合でもウイルスを排出している状態なので、自分が知らないうちに他人に移してしまうおそれがあります。

特に職場では感染が拡がりやすいことがわかっています。例えば、2018年には茨城県庁で14例の集団発生(県庁舎内における風しん集団発生の概要と対応―茨城県)が起きています。

職場における風しん対策ガイドライン(国立感染症研究所 平成26年3月)によると、2013年を中心とした流行について、感染経路の記載があった報告書のうち、男性の7割近くが職場での感染と記載されていたとしています。

風しんとして報告された20~60歳男性9,862人中、何らかの感染原因・感染経路の記載があった者は1,761人であり、このうち職場での感染に関する記載のあった者が1,207人 (68.5%)と最多であった。このうち同僚からの感染と記載されていた者が484人、職場で風し ん患者と接触したと記載があった者が237人、職場で流行があったと記載されていたのが127人、 職場内又は通勤中と記載されていたのが 4 人であった。また、通勤中に感染したことが疑われ た者が39人であった。

また、組織のトップマネジメントが風疹に罹患した場合、外部への影響もさけられません。島根県益田市の市長が風疹にかかった事例(島根県益田市長 風疹に感染した体験もとに風疹予防呼びかけ)や重要な国際サミットの関連会議に出席した事例(国際協力銀行総裁が風疹と診断 G20関連会議にも出席していた)があります。

職場での費用助成や集団接種に取り組む企業もあります。

こうした状況をふまえて職場での流行を防ぐために風疹対策を社員に呼びかけたり、社内で抗体検査や集団接種を実施したりワクチン接種の費用補助を行うなどの取り組みをすすめる企業もでてきています。

企業で風疹対策を行うメリットの1つは、危機管理対策として社内での集団発生を防ぐこと。社内で風疹が流行することにより業務に支障が生じる可能性があります。集団発生によりお客さまにも影響が及ぶとすれば、信用を失いかねません。

2点目は、社員の働きやすさが向上すること。風疹をはじめとした感染症対策がしっかりしていれば、妊婦さんはもちろんのこと、自身や家族が基礎疾患(心疾患やがんなど)を持っている人や、小さなお子さんがいる人も安心して働き続けることができるだけでなく、お客さまにも安心感を与えます。

3点目は、ポジティブなイメージを社会に与えることができること。2018年の流行初期の段階でアクションを起こしたいくつかの企業はモデルケースとして取り上げられ、テレビや新聞のニュースで取り上げられたり「風疹ゼロプロジェクト」で表彰されました。

危機管理、働き方改革、社会貢献、この3つの観点でメリットがあります。抗体検査や予防接種の費用を助成するだけでなく、社内外への広報を組み合わせることで、社会に貢献している、感染症対策に積極的で妊婦さんでも安心して働ける会社というポジティブなイメージにつながります

COVID-19だけでなく、いまだに流行を防げていない風疹の対策も忘れないでください。

なぜ2018年、再び流行が起きてしまったのでしょうか。

それまで行われてきた対策は、主に、妊娠を希望する女性(とそのパートナー)を対象に、抗体検査や予防接種の費用を助成するものでした。

そのため、感染者の8割をしめる働き盛り世代の男性の予防接種が進みませんでした。いくら風疹の予防を呼び掛けても、時間がない、お金がないなどの理由で接種をあきらめてしまう人もいたのです。

つまり、かつての医療政策により予防接種を受けられなかった世代への対策がなされなかったことが原因としておきた流行なのです。

新たな流行を受けて2019年度から、定期接種の対象となっていない世代に対して、第5期の定期接種が実施されることになりました

対象者は、昭和37年(1962年)4月2日から昭和54年(1979年)4月1日までの間に生まれた男性で、2022年3月31日までです。 この制度では、まず抗体検査を受検し、抗体価が低い(HI法で8倍以下)と判定された人が予防接種の対象となります。

抗体検査および定期接種のクーポン券は、3年間に分けて各自治体から送付されます。

  • 2019年度の送付対象
    昭和54年4月1日~昭和47年4月2日生まれ
    約646万人
  • 2020年の送付対象
    昭和47年4月1日生~昭和41年4月2日生まれ
    約570万人
  • 2021年度の送付対象 (自治体によっては前倒される場合あり)
    昭和41年4月1日生~昭和37年4月2日生まれ
    約319万人

まだクーポン券が送られてきていなくても、対象の年齢であれば、各自治体に請求すれば受け取ることができます。

この事業における達成目標は以下の通りです。

  1. 2020年7月までに、対象世代の男性の抗体保有率を85%に引き上げる
    抗体検査480万人・予防接種100万
  2. 2021年度末までに、対象世代の男性の抗体保有率を90%に引き上げる
    抗体検査920万人・予防接種190万人

2019年前半期の実績では、抗体検査が約87万人で、クーポン券発送予定者の中の13.4%、予防接種約17万人で、同じく2.7%であることから、現在のところ国が想定したほど進んでいないことがわかっています。

2020年7月時点では、3月までに抗体検査が143万人、予防接種が30万人でした。新型コロナウイルス感染症の影響により、4月に行われる企業検診が中止されてしまったため、目標を達成することはできませんでした。そのため当面のあいだ目標達成期間を1年延長し、今後見直しを行うとのことです。

新型コロナウイルス感染症により、さまざまな制約があるなかでも、風疹対策を着実に進めていかなければ再び風疹の流行が起きてしまう可能性があります。

COVID-19の感染対策に配慮しつつ、健康診断の際に抗体検査を受検できるようにするなど、働き盛りの男性をターゲットに予防接種を受けやすい環境作りを整える必要があります

風疹の流行をなくすために、あなたにできること。

まずは、あなた自身が風疹から守られることが重要です。

STEP0: 自治体などの助成制度を確認する

現在実施されている定期接種は原則として無料です。自治体などから助成金が出る場合もあります。条件は各自治体によって異なりますのでするか、担当部署へおたずねください。会社や健康保険組合が助成を行っていることもあります。
  • 女性の方
    お住まいの地域で、妊娠を希望する女性向けに抗体検査や予防接種の費用助成を行っているかどうか、「○○市 風疹ワクチン 助成」などのキーワードで検索してみてください。
    利用方法は各自治体によって異なります。自己負担額は3,000円前後のところが多いようです。
  • 男性の方
    昭和37年(1962年)4月2日から昭和54年4月1日(1979年)までに生まれた方は第5期定期接種の対象になります。費用は原則として無料です。
    定期接種を実施している医療機関は厚生労働省のウェブサイトに掲載されています。 -> 風しんの追加的対策について|厚生労働省
    定期接種に該当しない方でも妊娠中の女性と同居している、またはパートナーが妊娠を希望している場合は、自治体の助成制度を利用できる場合があります。同様に「○○市 風疹ワクチン 助成」で検索してみてください。

STEP1:風疹への免疫を持っているか血液検査で確認する。

自分や母親の記憶はあてになりません。母子手帳などで予防接種を受けた記録が残っていることを確認してください。1歳以上で2回接種を受けた記録がない場合は、抗体検査を受けてください。
  • 第5期定期接種のクーポンを使用する場合には、抗体検査が必須です。
  • 自費の場合は5千円前後かかります。費用負担が気になる方や、時間があまりない方は、このステップを飛ばして予防接種を受けてもかまいません。

STEP2: 抗体検査の結果、抗体価が低かったら、MRワクチン(麻しん風疹混合ワクチン)を接種する。

MRワクチンは、お近くの「内科」「小児科」あるいは「トラベルクリニック」で打つことができます。
  • 風疹単体のワクチンもありますが、特別な理由がない限りは麻疹への免疫をつけるためにMRワクチンをおすすめします。
  • 妊娠中の女性はワクチンを接種できません。出産後すぐに接種しましょう。
  • インフルエンザ、麻疹、水ぼうそう(帯状疱疹)、ムンプス(おたふく風邪、流行性耳下腺炎)のワクチンも同じ日にまとめて接種することができます。

Step3: 抗体検査や予防接種を受けたら、母子手帳などに記録を残す。

今後風疹が流行ったときに「あれ?打ったっけ?」とならないためにも、記録を残すようにしてください。
  • 病院でワクチンの接種歴を聞かれることがあります。
  • 医療機関などへの就職や海外留学で、記録の提示を求められることがあります。

風疹のことを話そう、伝えよう。

風疹の流行を食い止めるには、風疹が外から入ってきても流行が起きないように、社会全体で風疹への免疫をつける必要があります。

先ほど風疹の追加的対策の目標の中に「抗体保有率を85%に引き上げる」という言葉が出てきました。これは、「集団免疫」という考え方にもとづいています。

ある集団において高い抗体保有率が達成されていれば、感染症の拡大を防ぐことができる。これにより、ワクチン接種前の赤ちゃんや病気でワクチンを接種できない人も感染から守られます。

もしあなたが「風疹って流行ってるの?」と思っているとしたら、それは集団免疫によって守られているからに他なりません。多くの人が予防接種を受けることで、これから生まれる赤ちゃんの命を守ることができます。

残念ながらいったん流行がおさまってしまうと、流行が起きていたこともあっという間に忘れ去られてしまいます。 でも、流行が起きてからワクチンを打とうと思うのでは遅いのです。

未来の自分や家族、友人が「あのときワクチンを打っていれば」と後悔せずにすむように、そっと背中を押してあげてください。

風疹の流行をなくし、先天性風疹症候群で亡くなるこどもや障害を持つこどもをゼロにするためには、あなたの力が必要です。あなたが行動を起こせば、未来のいのちを守ることができます