風疹のこと

2019年の風疹対策を振り返る – 先人たちが作り上げた感染症の少ない未来に生きる私たち。そしてこれから私たちが作るべき未来とは。

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年末なので昨年からの風疹の流行状況を振り返りつつ、今私たちはどこに向かって行動すればよいのか、そんな話を今日はしていきたいと思います。

流行は収束しつつあるものの、セキュリティホールは空いたまま

昨年からの流行は今どうなっているのでしょうか。「感染症発生動向調査 2019年第50週 速報」によると、今年の前半で患者数が2,000人を突破し、後半になってからはゆるやかに推移している状況です。ここ2ヶ月ほどは週あたり10人以下で局地的な流行にとどまっているといえます。

男女別に見ると、男性が約1,800人、そのうちの半数が40代と50代。2013年流行のときに流行の中心となった集団で、第5期定期接種の対象世代にあたります。

女性は約500人で、6割以上を占めるのが20代から30代の女性です。妊娠適齢期にあたる世代なので、この中には妊婦さんも含まれます。

先天性風疹症候群は4人報告がありました。6月あたりは週に50人で推移していたので、来年の3月までの間にあと1人か2人ほど生まれるかもしれません。

結局「CRSの発生をなくすとともに、2020年までに風しんの排除を達成する。」という目標は達成されず、セキュリティホールが残ったままオリンピック、パラリンピックを迎えることになりそうです。

セキュリティパッチ「第5期定期接種」の適用は想定よりも進んでいない

結局、目標を再設定せざるをえなくなりました。5年もあれば対策ができるはずと見積もったはずなのに、5年以上かかっても対策が進まなかった。

そこでより実効性のある対策をと、2019年年度から2021年度の3年間をかけて第5期定期接種が実施されることになったのはみなさまもご存知の通りです。

11月28日に開催された厚労省の感染症部会の資料を見てみましょう。

資料7 風しん追加的対策の今後の実施方法について(案)

まず目標はこちら。

  1. 2020年7月までに、対象世代の男性の抗体保有率を85%に引き上げる
    抗体検査480万人・予防接種100万人
  2. 2.2021年度末までに、対象世代の男性の抗体保有率を90%に引き上げる
    抗体検査920万人・予防接種190万人

クーポン券配布の対象は以下の通りです。2019年度分については配布済みで、2020年度分については、厚労省としては年度内に配布して新年度の定期健康診断で活用してもらいたいと考えているようです。

  1. 2019年度
    昭和47年4月2日から昭和54年4月1日生まれの男性(現在40〜47歳相当)、約646万人
  2. 2020年度(予定)
    昭和41年4月2日~昭和47年4月1日生まれの男性(現在47~53歳)相当、約570万人
  3. 2021年度(予定)
    昭和37年4月2日から昭和41年4月1日生まれの男性(現在53〜57歳)

実績は現在のところ、2019年前半期、抗体検査が約87万人で、クーポン券発送予定者の中の13.4%、予防接種約17万人で、同じく2.7%です。

クーポン券自体の発送は今年の6月から8月にかけて行われていますので、ことし後半での利用は前半ほど伸びないのではないでしょうか。

抗体検査の試料やワクチンの供給不足を懸念して対象を絞り、3年がかりで対策を行うことになったはずが、実際にフタを開けてみると想定していた大きな混乱は起きなかったようです。むしろ予想していた見込みを大きく下回っていて、想定よりも対策が進んでいません。

「とりあえずパッチを当てとこう」的な対策はもうやめよう

周りで流行していなければ話題にならない。流行が起きるとマスメディアが続々と風疹について取り上げて、SNS上でも話題になって広がっていく。でも今ってもう大きな事件があっても数日で全く別の話題に変わっちゃいますよね。

そのとき「あ、ワクチンを打ちに行かなくちゃな」って思うんだけど、そのときには接種希望者が殺到して供給が不安定になったりするんです。で、じゃあ今度打ちに行こうかなって思うんだけど、流行がいったんおさまると「ま、いいか」って思っちゃう。

予算がないから、他に優先するべきことがあるからという理由で抜本的な対策は行われず、「なんかここにバグがあるっぽくてエラーを吐くんだけど、とりあえず動くようにパッチを当てといた。」的な、後手後手の対策が繰り返されてきたわけです。

だからインパクトのある大きなアクションを仕掛けて、短期間に一気に対策するべきだったのです。それも今ではなく、2013年にやるべきことだったんですよ。あのとき海外からMMRワクチンを輸入してでも一斉にワクチンを打ってしまえば、今回の流行は起きなかったのではないかと思います。

実は女性向けの対策もいまだに中途半端なまま

今回の流行で、先天性風疹症候群の赤ちゃんは4人生まれました。これが2013年からの5年間行われてきた風疹対策の結果です。対策が生ぬるかったということですね。

女性で風疹にかかったのは妊娠出産の適齢期にもあたる20〜30代が中心。流行のさなかに風疹が流行してしまい、不安に思われた方もおおぜいいらっしゃるのではないでしょうか。

女性向けの対策としては、妊娠希望の女性とそのパートナーや家族に向けて自治体の費用助成が行われいます。でもそれだけで本当に大丈夫なんでしょうか?

結婚しない女性が増えていて、結婚していても、子どもを作るのには経済的なリスクが伴う。結婚して、子どもを産むのが当たりまえ、今はそういう時代ではありません。

妊娠希望を前提とせずに、本当はみんな打てるようにするべきなんです。結婚する前の独身の段階で打っておいて、いざ結婚、妊娠となったときに心配せずにすむのがいちばんいいんです。

2013年からずっと是正されないままなのですが、女性への対策はこのままでいいのか、若い女性にリスクが残存しているのをこのまま放っておいてよいのか、疑問です。

コーヒーを買うついでに、ふらりとワクチンをうちに行けるといいのに

そもそも独身世代に向けて女性、妊娠、子どもっていうキーワードを前面に押し出しすぎると、ますます自分に関係ないんじゃないかと考える人が多くなると思うんです。

風疹ワクチンの第一の目的は、妊婦さんとお腹の中にいる赤ちゃんを守ること。でもそれだけでは何か足りません。

働き盛り世代はとにかく忙しくて時間がない。仕事が忙しいってのもそうだし、仕事以外で大事にしているプライベートの予定とかもある。病気にかかっているわけでもないのに、予防接種のために病院に行く予定のプライオリティが下がってしまって足が遠のく。

費用負担の面も無視できません。自費であれゔば1万円前後します。これに関しては、定期接種というかたちで、流行の中心になっている世代向けの対策がとられました。

でも、せっかくタダにしたのにクーポンの利用率が想定よりも下回っている。となると、あとは抗体検査を受けたり、ワクチンを打つための時間を作ってもらうための工夫が必要です。

このあたりは厚労省が企業向けのセミナーを開いていて、健康診断で抗体検査を受けられるように呼びかけが行われているところです。

予防接種のためだけにアクションを起こすのではなくて、昼間コーヒーを買いに行くついでにワクチンを打つとか、何かのついでにできる気軽さがあると予防接種を受けてくれる人が増えるのに。

免疫力をパワーアップ、ついでに社会貢献もできてしまう「なんかすごいやつ」、その名は「ワクチン」

さて、忙しい、面倒くさい、ってのはすごくよくわかるんですけど、やっぱりこういう話って自分のことなんですよ。

風疹にかかって数日休んだら給料が万単位で減っちゃったりとか、あるいは有給が消えちゃったりとか、そういうの嫌ですよね。

あるいは明日すごく大事な試験があったり、VIPへのプレゼンがあったり、楽しみにしていた予定があったり。そんな大事な一日を逃すのも、くやしいですよね。

ここでワクチンの出番なんです。もともと体にそなわっている免疫システムの仕組みをうまく使って、あらかじめ「敵はこいつだからな。こいつを見つけたら退治しろ」って教えておく。

そうすれば、ウイルスが体の中に入ってきたとき、何もしていないよりは早くウイルスをやっつけることができる。かかったとしても早くやっつけてしまえば重症化を防げる。

ある日突然病気になるんじゃなくて、体調が良くて余裕のあるときに打っておける、免疫力をアップできる「なんかすごいやつ」なんです。

普段健康な人がワクチンを打ったらもっとパワーアップできる。しかもそれだけで社会貢献までできてしまう。周りの人たちのことを守れて、さらに将来の世代の命も守ることができる。一石三鳥だと思いませんか?

先人たちが作り上げた感染症の少ない未来に生きる私たち、そしてこれから

予防接種って未来への投資なんです。今回の風疹の流行って、数十年前と比べたら「この程度ですんでいる」ということもできるんですよ。

昭和87年だったら風疹患者は全国で数十万人、それ以前だったら東京だけで数十万人クラスです。でも今は2018年から今日までで5,000人。

それは戦後になって風疹ワクチンが日本で使えるようになって、貧富の差に関係なく、みんなが予防接種を受けられる仕組みができたからなんです。

その枠組みから漏れてしまった人たちがいま問題になっているわけですけど、今の若い子たちは男女関係なく2回ワクチンを接種していて、いまや子どもの病気ではなく大人の病気になってしまいました。

「風疹ってまわりで流行ってるとか聞いたことないし…」と思える私たちは幸せだと思います。先人たちが作り上げた感染症の少ない未来の中に生きているのだから。

私たちが作るべき未来とはどんな未来でしょうか。防げる感染症が防げる未来であってほしいですね。

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