雑多なこと

オーバーシュートは「感染爆発」?海外メディアは使っていないってホント?

新型コロナウイルス対策におけるオーバーシュートの意味を表した図。
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COVID-19関連の聞き慣れないカタカナ用語

先日、ツイッターで河野太郎防衛相がCOVID-19関連のカタカナ用語に苦言を呈していました。

クラスター 集団感染 オーバーシュート 感染爆発 ロックダウン 都市封鎖 ではダメなのか。なんでカタカナ?

( @konotarogomame 3月22日 より)

3月19日に発表された専門家会議による「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」 においては下記のような言い換えが使用されています。

  • クラスター : 患者集団

  • オーバーシュート:爆発的患者急

  • ロックダウン : 数週間の間、都市を封鎖したり、強制的な外出禁止の措置や生活必需品以外の店舗閉鎖などを行うこと

具体的なイメージは、この新型コロナウイルス対策の目的(基本的な考え方)に示されています。つまり、厚労省は「患者が増えるスピードが速く、医療対応の限界線を超えてしまう」という意味で使っています。

流行のピークの山を下げて、グラフの傾斜をなだらかにし、医療対応の限界を超えないようにコントロールしようというのが、今行われている対策の大きな目的なのです。

( 第12回(令和2年2月23日開催)資料 より)

図がごちゃごちゃしていて分かりにくいので、図をシンプルにしました。グラフの曲線がキャパシティの限界線が引かれていて、その限界線を超えている状態です。

新型コロナウイルス対策におけるオーバーシュートの意味を表した図。

外出を自粛するとか、三密(密閉、密集、密接)を避けるといった対策を行うことによって、患者数の増加を抑えることができれば、山の傾斜がゆるやかになり、限界線を超えることなく、流行が収束していく。これがゴールです。

オーバーシュートを感染爆発と言い換えているメディアもありますが、空間的な拡がりをイメージさせる「感染爆発」ということばとはニュアンスが異なります。

オーバーシュートは「感染爆発」という意味ではない

オーバーシュート(overshoot)は、一般的にはある基準となる状態や値を超えることです。英単語の用例としては、”overshoot a runway”なら滑走路をオーバーランするという意味になり、”the 100 million dollar overshoot in the cost” なら費用が一億円オーバーしてしまったという意味になります。

分かりやすい日本語訳はないようですが、制御工学分野では「行き過ぎ量」というようです。

以下の図は、信号の振動が基準値を超えて行き過ぎたあと、時間の経過とともに許容範囲内(±5%)におさまり振動が安定することを表したものです。

制御工学分野におけるオーバーシュートを表した図。信号の初回応答が許容範囲を上に飛び越え、その後振動を繰り返しながら許容範囲内へと収束していく。

(by JanHRichter, CC BY-SA 3.0, Wikimedia Commons)

タイポグラフィの分野でもこの用語が使われます。書体のデザインにおいて、基準となる文字、たとえば”X”や”H”という文字の上下のラインを超えて文字がはみ出すことをあらわします。

以下の図では、”kei”の”e”と”e”がベースラインを超えて下にはみ出ている。さらに”kpi”の”p”と”i”の文字がエックス・ハイトを超えて上にはみ出ていることを示しています。

タイポグラフィにおけるオーバーシュート 。"keo" "kpi"という文字が書かれており、"keo"の"e"と"o"がベースラインを超えて下にはみ出ている。さらに"kpi"の"p"と"i"の文字がエックス・ハイトを超えて上にはみ出ている。

(original by Fenton, derivative work by Mæx, CC BY-SA 3.0, Wikimedia Commonsより)

この用語に関しては、あれこれ難しいことを考えるよりも、英語の over と shoot のイメージで捉えたほうがわかりやすいかもしれません。

海外メディアでovershootはほとんど使われていない

海外報道の見出しをざっと見てみたところ、overshootというのは主に日本の報道で使われてて、海外メディアでは surge や spike が使われることが多いようです。

surge : 波のように押し寄せる

spike : 釘の先端のように尖る

Explosion : 爆発的な

明確かつ誤解の余地のないメッセージを

私たちが戸惑う新しい言葉は、「クラスター」、「オーバーシュート」、「ロックダウン」だけではありません。日本語でも分かりにくいことばがあります。

今週末、東京都などが要請した「不要不急の外出を避ける」は、何が必要な外出で、何が不必要な外出なのかは受け手の解釈に委ねられました。

「密閉、密接、密集を避けて」というのも曖昧です。何をもって密接というのでしょうか。密接を避けるには、どれくらいの距離を離せばいいのでしょうか。

英国政府は政府のウェブサイト(GOV.UK)の全ページに以下のようなメッセージを掲載しています。

Stay at home

  • Only go outside for food, health reasons or work (but only if you cannot work from home)

  • If you go out, stay 2 metres (6ft) away from other people at all times

  • Wash your hands as soon as you get home

Do not meet others, even friends or family.

You can spread the virus even if you don’t have symptoms.

国民へのメッセージは非常にシンプルです。家にいなさい。

例外は、食料を買いに行くとき、病院や薬局に行くとき、在宅でできない仕事をしに行くときだけです。もし外に出るときは常に他人と2メートルの距離を保つこと、家に帰ったらすぐに手を洗うこと。たとえ友人や家族であっても他人に会ってはいけません。

このメッセージは、小学校低学年くらいの子どもにも伝わるように考えられていると思います。

社会的隔離の国民向けガイドラインでは、さらに詳しく、何はOKで、何はNGなのかという具体的なガイドラインが示されています。

一方日本は曖昧なメッセージが発し続けられています。日本の小学校生が「不要不急の外出を自粛してください」というメッセージを理解できるでしょうか。

大人から子供まで、各自が自由に解釈し、それぞれが異なった解釈をし、それに基づいた対策がなされているようです。

クライシス状態下においては、聞き慣れないカタカナ用語を使ったり、曖昧なお願いのメッセージを発したりせず、誤解の余地のない、明確なメッセージが発信されなければなりません。

さらに、昨晩の安倍総理の緊急記者会見の様子では、厚労省のいう三密ー密閉、密集、密接という条件を満たしているように思われました。テレビの向こうのさまざまな場所で、今までと同じように会議や記者会見を行っています。

これでは、ひょっとして大丈夫なのではないかと思ってしまい、危機感が薄れてしまいかねません。呼びかける側に立つ方々が行動の見本を示すことも、国民の危機感を保つために、きわめて重要なことだと思います。

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