まずは、風疹ってどんな病気なのか、というところから説明したいと思います。みなさんは風疹という病気を聞いたことがありますか?「三日ばしか」なら聞いたことがあるかもしれません。
風疹っていったいどんな病気なんだろう?
風疹は、風疹ウイルスが原因で起こる感染症です。風疹ウイルスは、左の画像では、丸いお団子が並んでくっついているように見えます。
直径60ナノメートルくらいの大きさで、光学顕微鏡(理科の授業で使う普通の顕微鏡)では見ることができないくらい小さいものです。
ウイルスは、ウイルスの設計図が書かれているRNAを持っていて、ヒトの細胞の中に入りこみ自分をたくさんコピーします。入り込んだ細胞が死ぬと、増えたウイルスが外に出ていって他の細胞に入り込んでいき、また自分をコピーするということを繰り返していきます。
風疹ウイルスは、感染した人からせきやくしゃみでうつります。これを「飛沫感染」といいます。飛沫のついたもの、たとえば電車の吊り革とかからうつることもあります。
ウイルスが人の体に入ってもすぐには何も起きません。2週間から3週間ほどはじっと潜伏していて、潜伏期間をすぎるとウイルスが暴れはじめます。すると、発熱(38~39度)、発疹、リンパ節の腫れ(耳の後部など)などの症状が出て、3日前後で熱が下がって発疹も徐々に消えていく。
麻疹とよく似た症状ですが、麻疹よりは軽いといわれています。だから「3日ばしか」という別名がついています。また、麻疹は「空気感染」で風疹よりもはるかに感染力が強く、その場に一緒にいただけで感染することもありえます。
まれに、血小板減少性紫斑病(1/3,000〜5,000人)、急性脳炎(1/4,000〜6,000人)を合併することもあります。健康な大人であれば重症化することはまれですが、がんの治療中などで感染症への抵抗力が下がっていると命にかかわることもあります。
さらに、感染しても症状がでない「不顕性感染」が15~30%の割合で起こります。症状がなくてもウイルスに感染していることがあり、自分が知らないうちに風疹ウイルスの運び屋になっていることもあります。
お腹の中の赤ちゃんのいのちをおびやかす「先天性風疹症候群」
風疹の一番恐ろしいところは、妊婦さんがかかると赤ちゃんに影響が出てしまうかもしれないということです。
妊娠中に風疹にかかると赤ちゃんがおなかの中で風疹に感染し「先天性風疹症候群」(CRS:Congenital Rubella Syndrome)という目や耳、心臓などに病気をもって生まれることがあります。風疹ウイルスが赤ちゃんの体の中にまで入り込んで体のあちこちで悪さをします。
2013年に日本で風疹が流行ったときには、CRSで生まれた赤ちゃんが45人いて、11人が亡くなりました。医療にかかわる人たちには大きなインパクトをもたらしたんだけど、もしかしたら「たったの数十人?」と思う人もいるかもしれません。
でも、もし、いま風疹ワクチンがなかったらどんなことが起きていたか想像してみてください。1964年から65年のあいだにアメリカで流行ったときには、1,250万人が風疹にかかって、11,000人の女性が赤ちゃんを失い、2,100人の新生児が亡くなり、そして2万人の赤ちゃんがCRSと診断されました。
当時はベトナム戦争の真っ最中で、沖縄の米軍基地が中継基地としての役割を担っていました。その影響で408人の風疹障害児が生まれたことも分かっています。本土ではなくて、沖縄の島々で400人、これがどれだけの数なのか想像してみてください。
その後、アメリカでワクチンが開発され、風疹にかかる人が一気に減ってCRSで生まれる子どもが激減し、今のような状況にまでなったのです。
風疹とCRSを防ぐのに最も有効とされているのが風疹ワクチンの接種。マスクや手洗いも効果がないわけではありません。新型コロナウイルス(COVID-19)でも、マスクや手洗いの大切さが繰り返し伝えられています。ただ、それだけでは大きな流行を防ぐことはできません。
病気にかかってつらい思いをせずにすむためには、集団免疫─社会そのものを風疹から守るバリアを形成して、流行そのものを食い止めなければいけないのです。
風疹にかかったらどうすればいいの?
ここまで読んでくれた人ならピンとくると思います。ずばり「仕事や学校に行かない」ことが大切です。
発疹の出る2~3日前から発疹がでた後の5日くらいまでの間は感染力があって、他の人にうつしてしまう可能性があります。だから熱が下がっても発疹がでているあいだは、出社や登校をひかえてください。
治療法は、特効薬というものがないので、熱を下げるとか、喉のいたみをおさえるとかいった対症療法になります。症状がつらいときは無理をせずに病院に行ってもかまいません。
ただし、他の人にうつす可能性をへらすために、事前に電話などで連絡を入れてから受診するようにしよう。受診する際も、可能であれば公共交通機関の利用をさけてください。
もし妊娠中に風疹にかかってしまったら?
一番心配なのは妊娠中にかかってしまった場合です。先天性風疹症候群にかかって「目や耳、心臓などに病気や障害のある赤ちゃんが生まれるかも」と思うかもしれませんが、実はそれが全部出るわけではありません。
お母さんが風疹にかかった時期などによってリスクの度合いが変わります。一番リスクが高いのが妊娠2ヶ月ごろで、この時期は器官形成期という赤ちゃんの体をつくる大事な時期で、脳や神経、心臓が形作られていく時期に感染してしまうと命にかかわる症状が出ることが多いです。
逆にいうと、器官形成期を過ぎてしまえば赤ちゃんが元気に生まれてきてくれる可能性が高くなります。週数が増えるごとにリスクが下がっていって、耳ができあがるのが妊娠20週ごろ。5ヶ月過ぎて後半戦に突入したらほぼ心配はいらないとされています。
風疹にかかったかもしれないなと思ったら、まずは担当の先生に相談することが大切です。(他の人にうつすのをさけるため、まずは電話などで相談しましょう)
病院では、本当に風疹にかかったかどうかを検査をして確かめます。その結果を踏まえて相談をして、さらに二次相談窓口に相談することもができます。
そのあともう少し詳しく話を聞きたいなと思ったら、カウンセリングや胎児診断(羊水検査)を希望することもできます。複数の専門家の意見をよく聞いて、納得したうえで進む道を決めてください。
二次相談窓口は以下の通りです(2021年1月時点での情報)。患者さんが直接相談するのではなく、主治医の先生を通して利用することになっています。
- 北海道ブロック:北海道大学附属病院産科
- 東北ブロック:東北公済病院産婦人科、東北大学病院産科
- 関東ブロック:三井記念病院産婦人科、帝京平成短期大学、横浜市立大学附属病院産婦人科、国立成育医療センター周産期診療部
- 東海ブロック:名古屋市立大学附属病院産婦人科
- 北陸ブロック:石川県立中央病院産婦人科
- 近畿ブロック:国立循環器センター周産期科、大阪府立母子保健総合医療センター産科
- 中国ブロック:川崎医科大学附属病院産婦人科
- 四国ブロック:国立香川小児病院産婦人科
- 九州ブロック:宮崎大学附属病院産婦人科、九州大学附属病院産婦人科