先天性風疹症候群(CRS)とは

「先天性風疹症候群」(CRS:Congenital Rubella Syndrome)は、お腹の中の赤ちゃんが風疹に感染することによって起きる病気の総称のことです。

三大疾患に心疾患、白内障(緑内障、色素性網膜症)、感音性難聴があり、そのほかに小頭症、精神発達遅滞、髄膜脳炎、X線透過性の骨病変などを合併することが知られています。これらの病気は風疹ウイルスが赤ちゃんのからだの成長を止めてしまうために起こります。

そのため、リスクの度合いはお母さんが風疹に感染した時期と関係があります。最もリスクが大きいのは妊娠4~6週のあいだで50%以上。この時期は器官形成期といい体の臓器を作る重要な時期です。器官形成期を過ぎると発症リスクが減少していきます。2ヶ月で35%、3ヶ月で18%、4ヶ月で8%と減っていき、20週を過ぎると大きな影響はほとんどないとされています。

心疾患、白内障、感音性難聴のうち心疾患と白内障は最初の3ヶ月の感染で発生します。難聴は初期の3ヶ月間だけでなく次の3ヶ月でも発生するので念のため24週までは注意が必要です。

先天性風疹症候群の診断基準

先天性風疹症候群は、五類感染症に指定されており、感染症法に基づいた医師の届け出が必要です。届け出には、以下の「臨床症状」と「検査診断」の両方の条件を満たす必要があります。

ポイントは検査診断のデータの要件として「出生後の風しん感染を除外できるもの」となっていることです。生まれる前に風疹に感染した証拠が必要なため、出生後長期間経つと診断が困難であるとされています。

下記は『感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について』のページに記載されている届け出基準です。

ア. 届出のために必要な臨床症状
(ア) CRS典型例;「(1)から2項目以上」又は「(1)から1項目と(2)から1項目以上」
(イ)その他;「(1)若しくは(2)から1項目以上」(1) 白内障又は先天性緑内障、先天性心疾患、難聴、色素性網膜症
(2) 紫斑、脾腫、小頭症、精神発達遅滞、髄膜脳炎、X線透過性の骨病変、生後24時間以内に出現した黄疸
イ. 病原体診断又は抗体検査の方法
(ア) 以下のいずれか1つを満たし、出生後の風しん感染を除外できるもの

  • 分離・同定による病原体の検出(咽頭拭い液、唾液、尿)
  • PCR法による病原体の遺伝子の検出(咽頭拭い液、唾液、尿)
  • IgM抗体の検出(血清)
  • 赤血球凝集阻止抗体価が移行抗体の推移から予想される値を高く越えて持続(出生児の赤血球凝集阻止抗体価が、月あたり1/2の低下率で低下していない。)(血清)

CRSの治療について

心疾患

「動脈管開存症」(PDA) や「肺動脈弁狭窄症」(PVS)、さらに「心房中隔欠損症」(ASD)、「心室中隔欠損症」(VSD)といった病気がみられます。これらの病気は心臓の形そのものに異常はなく、血管の通り道が塞がっていたり、心臓の壁に穴が空いている状態です。

心房中隔欠損症や心室中隔欠損症では穴が小さく自然閉鎖が期待できる場合には手術をせずにすむことがあります。

白内障

[image:CRSによる白内障] 白内障は目の水晶体とよばれる部分が白くにごる病気で、CRSの約30%にみられ、水晶体への血流が多い妊娠初期に感染すると発症しやすいとされています。

水晶体はカメラの凸レンズの役割をしており、水晶体自体が厚みを変えて光を曲げ近くや遠くのものににピントを合わせ、そしてその光を網膜に届ける役割をもっています。

水晶体が白内障で白くにごると網膜に光が届きにくくなり、赤ちゃんの視機能の発達をさまたげ弱視になります。そのため重度の場合は生後3ヶ月を目安に手術をします。軽度の場合は経過観察をすることもあります。

大人の白内障手術では眼内レンズを挿入しますが、CRSの場合は目にほかの合併症を抱えていることも多いため挿入しないのが一般的です。成長を待ってから眼内レンズ挿入を検討します。水晶体を摘出すると強度の遠視になるため、眼鏡またはコンタクトレンズでの視力矯正が必要です。眼鏡はキャタラクトレンズという凸レンズで、中心部だけに度数を入れて重みをおさえたものが使われます。

早期に手術を行って視力を矯正すれば良好な視力を得る可能性が高いとされています。まぶしさを感じやすかったり、眼精疲労になりやすかったりするので、目に負担をかけないように遮光レンズの使用や拡大鏡の使用など生活面での配慮は必要です。また、網膜剥離や緑内障のリスクにも注意する必要があります。

感音性難聴

File:Anatomy of the Human Ear ja.svg

風疹による難聴は「両側、先天性、高度難聴」を特徴とし、早期介入・治療を行わないと言語獲得に大きな支障をきたすおそれがあります。難聴は現在の医学では治すことができないので、残存聴力の活用(補聴器をつける)、人工内耳の挿入、聴力低下の防止の3つが主な治療です。

難聴の種類は、音を伝える経路のどの部分に障害を生じているかにより、「伝音性難聴」と「感音性難聴」、その両方をあわせもった「感音性難聴」にわけられます。

まず、外耳(外耳道)を通り、鼓膜、中耳(槌骨、キヌタ骨、アブミ骨)を経由して、蝸牛へと伝わっていきます。この部分に障害が生じている場合は「伝音性難聴」です。中耳炎や耳垢塞栓(耳垢が詰まる)などによって生じます。

内耳(蝸牛)に伝わった音は、神経信号に変換され、聴神経(前庭神経:平衡感覚を伝える、蝸牛神経:音を伝える)から脳へと伝わります。この部分に障害が生じているのが「感音性難聴」であり、風疹による難聴はこちらに属します。ウイルス感染以外には、薬の副作用(ストレプトマイシンが有名)などが原因で起こります。

感音性難聴の場合、音が歪むため補聴器の装用効果は人によって差があります。重度の感音性難聴では補聴器の装用効果が出にくく人工内耳挿入の適応となります。

(※耳の構造画像の出典:Chittka L, Brockmann『Anatomy of the Human』)

補聴器

補聴器の種類補聴器は簡単に言えば音を増幅する装置です。音を増幅する回路にはアナログとデジタルの2種類があり、アナログ補聴器は安価で雑音が混じって聞き取りづらく、デジタル補聴器は高価で雑音が少なく聞き取りやすいという特徴があります。

現在主流となっているのは、デジタル補聴器です。性能が向上したため90dBを超える重度難聴の人でも会話や音楽を楽しめるようになりつつあります。小型化が進み手の指におさまるサイズの補聴器も登場しています。また以前に比べて色やデザインの選択肢が増え、ファッションとして補聴器をつけられるようになりました。

補聴器自体の形には箱形、耳掛け型、耳穴型の3種類があり、見た目や音を集めるマイクの位置の違いがあるので、それぞれのライフスタイルに合わせて選択します。箱形はボリューム調整がしやすいので主に乳幼児や高齢者が使います。耳掛け型は眼鏡と同じように補聴器を耳にかけるもので、耳穴型は補聴器そのものを耳介にはめ込むものです。

人工内耳

人工内耳を埋めこんだ耳の構造図平均聴力レベルが90dB以上あるいは補聴器を半年以上つけても効果が見られない場合には人工内耳が適応となります。手術が可能になるのは原則として1歳以上(体重8kg以上)からです。(詳細な条件は『小児人工内耳適応基準』に記載されています。)

人工内耳は補聴器(スピーチプロセッサ)から入った音を電気信号に変えて蝸牛の中に入れた電極により直接聴神経へと情報を伝える装置です。

蝸牛の中にワイヤーを挿入する必要があり全身麻酔下での手術が必要ですが、補聴器よりも人工内耳のほうが良い聴力を得られ言語訓練の効果が比較的早期に出ることから近年は人工内耳を選択するケースが増えています。ただし、人工内耳をすれば普通の人と同じように聴こえるわけでないこと、また言語訓練を行わなければ効果が十分に得られないに留意する必要があります。

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