前のページで、『三大疾患に心疾患、白内障(緑内障、色素性網膜症)、感音性難聴がある』ということを学びました。このページではそれらがどんな病気か簡単に紹介します。
あくまでも一般的な病気の説明なので、具体的にどのような症状が出るかは、ひとりひとり違ってきます。その点ご了承くださいませ。
先天性心疾患
風疹ウイルスが原因で起こる心臓病は、血管の通り道が塞がっていたり、心臓の壁に穴が空いていたりして心臓や肺に負担がかかってしまう病気が多いことがわかっています。
具体的には、「動脈管開存症」(PDA) や「肺動脈弁狭窄症」(PS)、さらに「心房中隔欠損症」(ASD)、「心室中隔欠損症」(VSD)といった病気がみられます。
軽症では、症状がほとんどなく胸の音を聞いたときに雑音が混じっていて病気だとわかることが多いです。心房中隔欠損症や心室中隔欠損症では、自然に穴がふさがり経過観察だけですむ場合もあります。
重症の場合には生まれてすぐにチアノーゼといって、唇や指先が青くなる状態を引き起こすこともあります。その場合は赤ちゃんの命にかかわるので急いで手術をしなければなりません。
治療法は手術が中心ですが、近年では心臓カテーテル治療が大きく進んでいます。検査の精度も高くなっていてリスクをより正確に予測できるようになりました。その結果、昔にくらべて命を救えるようになっています。
それでも、心臓や肺が弱いと亡くなってしまうこどもたちはまだまだ多いのが実情です。2013年の風疹流行でも心臓病や肺炎で亡くなった子たちが10人いました。CRSは命にかかわる病気なのです。
先天性白内障
白内障は目の水晶体とよばれる部分が白くにごる病気です。CRSの約30%にみられ、水晶体への血流が多い妊娠初期に感染すると発症しやすいとされています。
水晶体はカメラの凸レンズの役割をしています。水晶体自体が厚みを変え、光を曲げ近くや遠くのものににピントを合わせて光を網膜に届ける役割をもっています。
もしレンズが白く濁ってしまうとどうなるでしょうか。目に光が届きにくくなってしまうのです。
赤ちゃんのものを見る機能は生まれたあとどんどん発達していきます。もしも白内障を治療しないまま放っておくと「弱視」といって、メガネをかけても視力が出なくなってしまいます。
白内障は、なるべく手術をしたほうが視力が出やすいといわれているので、重い場合は生後3ヶ月をめやすに手術をすることが多いです。
大人が白内障の手術を受けるときは、一般的には、水晶体を取り出したあと、すぐに眼内レンズを挿入します。手術が終わったらすぐに周りがくっきり見えて明るくなって、感動をおぼえる人もいるくらいです。
それに対して、CRSの赤ちゃんは他にも目の問題を抱えていることが多いため、手術を2回に分けます。1回目で水晶体を取り出して、2回目で眼内レンズを入れるのです。
1回目の手術の後で水晶体がなくなると、強い遠視になります。完全なピンボケ状態になってしまい、めがねやコンタクトレンズを使わなければよく見えません。めがねは「キャタラクトレンズ」という特注のもので、厚みがあり、外から見ると他の人よりも目がひとまわり大きく見えます。
2回目の手術を受けて眼内レンズを入れると、普通の人と同じめがねが買えるようになります。ただ、眼精疲労がおこりやすかったり、まぶしさを感じやすかったりといった見えづらさは残るので、まぶしさを抑えるために遮光レンズを使う人もいます。
また、白内障の手術をしたらそれで終わりというわけではありません。先天性白内障で手術を受けた人は緑内障になりやすい傾向があることも分かっています(続発緑内障といいます)。緑内障だとわかったら、目薬をさしたり、手術が必要になることもあります。
今のところ、緑内障により一度失ってしまった視野はもとに戻らないといわれています。新しい薬がどんどん出ていて失明することは少なくなりましたが、定期的に眼科にかかって緑内障を早く見つけることが大切です。
緑内障は自覚症状が分かりにくく、気づいた時には進行していることが多いです。40歳を過ぎたら眼科で検査を受けてくださいね。
感音性難聴
難聴は大きく「伝音性難聴」と「感音性難聴」のふたつに分けられます。「伝音性難聴」は、外耳や中耳の部分に障害が起きてなる難聴で、代表的な病気は中耳炎です。
中耳の先には内耳(蝸牛)があり、この部分に障害があるのが「感音性難聴」といわれるものです。蝸牛の中には有毛細胞が1万5千個ほどあって、音を電気信号に変えていくのですが、風疹ウイルスが有毛細胞にダメージを与えてしまうと音をうまくキャッチできなくなってしまうのです。
伝音性難聴と感音性難聴の大きな違いは、感音性難聴だと、音の大きさが小さくなるだけでなく、音が歪んでしまって「音は聴こえるんだけど、声が聞こえない」状態になってしまうことです。
たとえば、紙が雨にびっしょり濡れるとインクが滲んでしまう状況を考えてみてください。文字らしきものが書いてあるのは分かるけど、何て書いてあるのかさっぱり読めません。つまり、「文字らしきものは見えるけど、文字が読めない」。感音性難聴で音が歪むのも、似たようなイメージです。
目にはメガネ、耳には何をつけるでしょうか。そう、補聴器です。最近は人工内耳をつけている子も増えています。人工内耳は、蝸牛の中に電極の入ったワイヤーを入れて、直接聴神経へと音を伝えるもので、見た目がちょっと違うけど補聴器のなかまです。
補聴器も人工内耳も、最近はどんどん進歩しています。筆者は昔の補聴器を知っていますが、今は昔とはくらべものにならないくらい良くなっていると感じます。
ただ、残念ながら、どんなにいいデバイスがあったとしても、もともと人間に備わっている耳の機能にはまだかなわないのも、事実です。
生まれつき聴こえない人は、小さいときにすごく頑張って補聴器や人工内耳を使う訓練をします。それでも100パーセント、聴こえる人と同じように聞こえるようにはなりません。学校の授業で先生の話がよく分からないとか、電車の中のアナウンスが聞こえないとか、生活のいろいろな場面で困ることがあります。
聴覚障害という障害は、単に耳が聴こえないというだけではなくて、音から得られる情報にアクセスできないことによって生じる社会的障壁でもあるのです。
視覚障害に置き換えても全く同じことがいえる。もし、聴覚障害と視覚障害をあわせもって生まれたら、耳と目から得られる情報はもっと少なくなってしまう。
赤ちゃんが風疹にかかって生まれると、その後の一生にまで影響をおよぼしてしまうのです。